王が起つとき










ルルーシュ、と呼び掛けた彼女の口から放たれた台詞は、ルルーシュに衝撃を与えるのに十分なものだった。
「私をお前の騎士にしろ」
そう云って颯爽と現れた彼女の髪がふわっと揺れる。途端に鮮やかなライトグリーンが目の前を支配し、微かなチーズの臭いが鼻をくすぐった。
「お前……いきなり現れたと思ったら、一体どういう風の吹き回しだ?」
「さあ…どうってことない」
「そんなことを聞いているんじゃない」
相変わらず会話の咬み合わない奴だ、そんなことを思いながらベッドへ入ろうとしたら、背後から近づく気配が急に沈んだ気がした。
「私は真面目だ」
そう云う彼女に振り返ると、真っ直ぐに此方を見据えてくる蛍光灯に光る双眼。何処かいつもと違う色を湛えたそれに、何故か胸が痛くなる。お互い息をするのも忘れた空間には、コチッコチッと秒針が紡ぐ音だけが響いた。
「私がお前を守ってやる。だから私を騎士にしろ」
「それは…命令形なのか?」
再度問うと、彼女がゆっくりと沈みこむ。気が付くと、C.C.はルルーシュの足許に跪いていた。吃驚して見下ろすと、見上げてくる彼女の瞳とかち合う。ジッと彼女の瞳を覗き込むが、そこからは決意の色しか読み取れなかった。
「だがお前は、騎士というよりクイーンだ」
このどこか掴めない高飛車な女に騎士なんかが勤まるはずがない。大体俺はもう皇族ですらないのだ。何故騎士を持たなくてはならないのか。何故この時期に彼女が騎士を名乗ってきたのか。
全く以て分からない。
「お前は黙って俺に守られてろ」
そうだ。何故俺が此奴に守られなくてはならないのか。俺がお前を守ってやると、以前そう誓ったのは記憶に新しい筈なのに。
「だからだ」
だが、彼女には届かなかったらしく。その一線を曳かないC.C.は至極真面目な顔で云う。机の上に放置してあるゼロの革手袋を弄りながら、彼女の次の言葉を静かに待った。
「お前は危うい」
「………」
「ゼロとしてのお前も、ルルーシュとしてのお前も、微妙なバランスの上に立っている」
「…それがお前に何の関係がある?」
いつ崩れるか分からない砂城の皇子……そう、彼女は云う。
いや、確かにその通りだ。判っている。
この足許に有るもの。築き上げてきたもの。その全てが今にも壊れてしまいそうだということを、俺は理解している。創り上げてきた疑似世界は、たった一つの崩壊で全てが無に還るだろう。
だが、女に守られてやる程、軟弱になったつもりはない。
「お前がいては、それだけで邪魔だ……」
守る守られるの話ではない。そもそもこれは契約なのだ。けれども。
「お前は、死ぬつもりだろう…?」



見下ろした先の瞳は、全てを見通したようで。途端に紡がれた言葉は、内へ内へと深く入り込み、思考を止める。力無く垂れ下がったルルーシュの手に添える冷たい掌。C.C.は捉えた手を愛おしそうに両手で包んだ。そしてその手の甲に、頬を擦り寄せる。
「お前が死んでは、私が困るんだ」
驚愕に見開かれた眼で捉えた瞳は、どこか嗤いを含んでいて。
「だから、私が守ってやる」
お前の足枷となって。



だから、誓いを立てさせろ。愛しい人…。











(yui)