To Primary in Ball










純白のレースの裾がはらりと舞い、濃紺のスカートから覗くほっそりとした脚がゆっくりと動く。弧を描いたその動きは、一瞬状況を忘れて見とれてしまう程の優美さ。タンッというこ気味良い音と共にその小柄でしなやかな体は宙を舞い、同時に繰り出された白いレースに包まれた脚は見事に相手の急所へと直撃した。軽やかに着地したその足許を狙った銃弾はそのまま地面へ吸い込まれ、相手の側面への移動で次の動きを封じ込める。視界の端でキラリと光った刃物を逆手に取り、一瞬の内にそれを防護服に包まれた首筋へと突き立てた。
あっという間の出来事。次の瞬間には、痛い程の静寂と少しの血の臭い、幾人かの這い蹲った人影に包まれる。静謐な月光がその場を淡く照らし、唯一その場を目下にし降り立った女性の瞋恚を露にした。その姿は今までの戦慄を感じさせないもので、纏った衣に返り血などは一切無く。ザアァッと吹いた突風に乱雑に弄ばれた肩で切り揃えた黒髪を押さえながら、女性は隅の方の小陰へとその歩を進めた。
「お怪我は御座いませんか?」
ふいに足を止めて呼び掛けたその先から、車椅子に座った黄金色の少しウェーブ掛かった髪の少女がその姿を現した。
「ええ、大丈夫です。有り難う御座います、咲世子さん」
ナナリーは見えない目を向け気配のする方へ手を差し出すと、ふわっと掴む手があった。
「いえ、私は貴女の騎士。いつ如何なる時も、貴女をお守りするのが私の役目です」
その手を掴むとその場に跪き、その甲にそっと口付ける。するとその手が少し持ち上がり、優しく頬を撫でていった。
「今回はいつもより少し、長引いてしまいましたね」
「思ったより相手が多かったもので…。その、全てを捕獲というのは無理だったのですが」
夜陰に乗じて強襲を掛けてくる襲撃者。その数はここ数日で確実に増えている。それを一人で相手取るのも、そろそろ限界かもしれない。またその分手加減にまで気が回らず、どうしても相手の息の根を止めてしまう結果になる。首謀者が分からない今、相手方の情報を得る為に拷問などの手も取らなくてはいけないのに…。
「仕方ありません。咲世子さん一人に無理難題を押しつけているのは承知してますから。もう……そろそろこの場所ともお別れでしょうか」
「残念ですが……敵に居所が知られてしまっては、既に時間の問題かと」
姫の側に控える騎士は、少し悲しそうな表情でそう云った。
「アッシュフォードの皆さんにご迷惑を掛ける訳にはいかないですし……本当に咲世子さんにはご迷惑を掛けてばかりですけれど」
「いえ、そんなことはありません。ナナリー様の側に居ることこそが、私の幸せです」
そう云って騎士は優しく微笑む。その優しさにどれ程助けられてきただろう。その手を汚しているのは私でなく紛れもない彼女なのに、どうしてもその優しさに縋ってしまう。
ところで、と彼女は綴った。
「ルルーシュ様には、いつお知らせになりますか?」
「そろそろ云わなくてはならないのは分かってはいるのですが……」
「…最近ルルーシュ様は夜も遅くなってから帰宅されているので、今回のこともまだ耳には入らない筈です。まだ暫くは私一人でも大丈夫です」
気丈な彼女の言葉にナナリーは顔を上げた。それでもまだ、彼女は一人で頑張ると云ってくれるのだ。私の、我が儘の為に。
「本当に…咲世子さんにはご迷惑ばかり……ご…」
ごめんなさいと、そう続けようとした言葉は、咲世子さんの手によって止められてしまった。頭を撫でる優しく暖かな手。
「それは無しですよ」
「!…そう、でしたね」
そう云うと、彼女が微笑むのが分かった。そんな彼女の為に私がしてあげられること。
ナナリーは穏やかに微笑んだ。



「これからもずっと、側に居てくれますか?」
優しい騎士は、ゆっくりと紡ぐ。
「Yes, your highness」











(yui)