りんご の 赤は、危険のしる し










―――カレン。
お前に赤い実をやろう。
それは永遠に夢を見させてくれる、真っ赤なりんご。
運命を顧みずとも、真っ直ぐに途を示してくれる。

赤。
赤。
赤。

それは………


兄が死んでから、カレンは極端にテロ活動へ精力的に参加するようになっていった。兄の恨み、母の恨み、日本人の恨み、それら全てを背負うかのように自らの命を顧みない行動は、時に周囲の者ですら目を見張るものだった。そして、いくら活動をしても晴らされることのない想い。それはますます燻りを見せ、いつしかその連鎖へと堕ちて行った。いや、今も堕ち続けている。最初は怖かった「死」にも見慣れた。「恐怖」にも打ち勝てた。そうして私は「無」になった。何をしているのか分らない。何の為の争い?何の為の戦争?どうして私たちを放っておいてくれないのか?螺旋に吸い込まれそうになった……
そんな時、彼が現れた。
―――ゼロ。
「私を信じろ!」
彼の言は私の胸の隙間を埋め尽くすように発せられた。いや、そのように感じただけなのかもしれない。ただその口を突いて出てくる言葉が、私を支えていることは確かだった。どうしてかは分らない。けれども、それが私の総てだった。
それからというもの、ゼロの発する言葉全てがそうだった。それは夢か、はたまた現世なのか、それは分らない。ただ、それが私の心に沁み込むかのように急激な勢いを見せたことは本当だった。
「お前は、我らが黒の騎士団のエースパイロットだ」
それは彼の右腕に任命されたも等しかった。私は途端に堕ちたのだ。彼の動作一つが、言葉一つが、視線一つが、全てが新しく感じた。
そして、与えられた赤い機体。
―――紅蓮弐式。
私は彼から赤いりんごをもらった。それを食べた者は死へ導かれるという。だが、私にはそのりんごは聖者の光を宿しているように見えた。りんごの赤、太陽の赤、紅蓮弐式の赤、神聖な赤。
全てが仕組まれたこととは知らずに、私はただ真っ赤な世界へ堕ちて行く―――

その世界は赤で出来ていた。自分の深層心理が引き起こした現実。
そしてやっと気付いた。
この赤は―――――血の色だ。
私の足元を埋め尽くす屍から滲み出た赤。それは私をも浸食し、体内の血液がそれに反応して疼く。
しかし、だからといって、それが何だと云うのだろう。
嗚呼、我が親愛なるゼロ、愛しいゼロ、私の総て―――。

たとえ毒りんごで出来た世界でも、それは私だけの領域なのだから………










それは私の心を揺るがすもの。だがしかし、何者もそこに立ち入ることは許されぬ聖域…

(yui)