気が狂っても踊り続けて










―――生きろ。
それがお前に課せられた唯一無二の選択肢。希望。途。運命。
選び取ることのできる道は、他にはない…


憎むべき白兜ことランスロットのパイロットの正体が誰なのか判った瞬間、味方…つまり黒の騎士団に奔った衝撃はとてつもなく大きかった。何よりパイロット―――枢木スザクを個人的に知る者が多過ぎた。まず日本最後の首相の一人息子≠ニしての彼を知る者。そして藤堂を始めとする日本解放戦線のメンバー。何より目に見えて反応が著しかったのが紅月カレンだ。『どうしますか』などと、らしくない質問を投げかけてくる始末。彼女はゼロ≠ェルルーシュ・ランペルージ≠セと知らない。故の罪深い問い掛け。もし、『殺せ―――』と命じていれば、彼女はどのような行動に出たのだろうか。絶対の主であるゼロの命令に鉄槌の意思を発揮するのか、それとも生徒会の同類イレヴンそして親友という仮面を表に出すのか。どちらにしろルルーシュ≠ノは関係のないことである。だが、ゼロ≠ニしてこの先の作戦に支障が出ないとも考えられない。今の黒の騎士団には不動の土台を築き上げることが何よりも最優先だというのに……最近は何かとイレギュラーが続いている。そして、その中でも、今回のことは到底無視できるものではなくて。
枢木スザクの、第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア専属騎士仕官。
皇位継承者としても上位に位置する彼女に仕える騎士。
年齢的にもそろそろだとは思っていた。義姉のコーネリアが気を揉んでいることも知っていた。だから只のお飾りのユーフェミアが名誉ブリタニア人を、しかもイレヴン最後の首相の息子という肩書を持ったスザクと知り合いで、その上彼を名指しで指名するなんて思いもしなかった。だってあいつはナナリーの―――…っ!!
…後悔しても、既に時は過ぎ去った過去で。今さら戻ることなど不可能なのだ。あの晴れ渡った空の下、互いに微笑みあった過去などに…。

「ルルーシュ」
今は聴きたくなかった…その聞き慣れた声に、それでも無視できずに振り返ると、そこにはいつの間にいたのか鳶色の癖毛の少年が立っていた。
その顔を見た途端蘇る先日のワンシーン。破壊されたコクピットから見えたデヴァイサーは、紛れもなくこいつで。信じまいとしていた事実は、テレビやラジオで厭という程繰り返し放送されていた。
「お前、技術部だって云ってたの、嘘…だったんだな」
「ルルー、シュ…」
「俺が……俺がどんだけ心配したと思って…」
思わず口を突いてしまった言葉。ルルーシュとしての言葉なのか、ゼロとしての言葉なのか…。

 う そ

心配なんてしてない。
でも、半分が本心。嘘で凝り固まった自分だとしても、それでもやっぱり、親友に対する気持ちだけは欺くことができなかった。
「ごめん、ルルーシュ」
「………」
いくら詰め寄ろうが、いくらのししろうが、彼が誤ること以外に出来る筈もないことは知っていた。だから、俺がとやかく云うことではないということも分かっていた。ふと顔をあげると、スザクは俯いたままじっと何かに耐えるように手を握りしめていた。
「ごめん、ルルーシュ」
「…っははははは」
再度彼の口から洩れる懺悔。あまりに不格好なそれに、俺は思わず笑ってしまった。
「ル、ルルーシュ!?」
何故だろう。何かが可笑しくて、俺は笑いを止めることが出来なかった。嗚呼、こんなにも可笑しい。
「いや…、お前のそんな真剣な姿、久しぶりに見たから」
彼が『俺』と云っていた時代。既に過去のこと。今さら振り返れるほど、俺たちの溝は浅くないのに…。
「ルルーシュ…」
そう云って微笑むその姿に、俺は何故か胸が締め付けられる思いがした。
それでもこの溝は、埋まらない。
「ごめん…でも、逆に皆に心配かけたくなくて」
そうだ。お前はそういうやつだ。それ以上でもそれ以下でもない。
周りを心配したあげく、最後はその行動が裏目に出てしまう。
そして気が付いたら、ピンクのお姫様の手の中に囚われてしまっているのだから。
「ああ、分かってる。皆も分かってるはずさ」
「…うん」
「だが、ナナリーを心配させた罪は重いぞ。今度一度ナナリーに会いに来てやってくれ」
「…ありがとう、ルルーシュ」
分かっている。最初はお前が選んだ道じゃなかったかもしれない。だが、ブリタニア軍に足を踏み入れた時から、俺たちの運命は決まっていたんだ。
お前がユーフェミアの騎士になるのも。
俺がゼロを名乗るのも。

全ては その時から

「あ、じゃあ、ルルーシュ。僕、もう行かなくちゃ…」
「…そうか。いろいろと整備とか騎士の授与式とか大変なんだろ?」
「うん」
「頑張れよ。それから、ユーフェミアのこと、頼んだぞ」
口を突いてくる言葉は、全て虚偽のもの。そんなこと、これっぽっちも望んじゃいない。
「それじゃ、ルルーシュ。また明日」
そう云うと、一目散に掛けて行くスザクの背中が目に入った。
「ああ、またな。スザク」
―――次に邂逅するのは、戦場だ…


だから、

俺は命じる。
さあ、生きろ。
この世の全てを見届けろ。
お前の眼で見ろ。感じろ。
もう心を赦しはしないだろう。
過去に戻れはしないだろう。
それでも俺≠ヘお前を赦す。
踊り続ける赤い靴。
お前に与えられた唯一の武器。
共に、永遠に、
「生きろ―――!」
だから、お前はこの先を。未来を。どうか、どうか。










さあ、永遠に踊り続けろ。俺が息絶えるその時まで。だが案ずるな。
いずれ人は、夢へと帰還出来るのだから。さあ、踊るが良い。俺の唯一無二だった人よ…


(yui)